シャッターの向こう側。
 だって、もの凄くドキドキする。

 今まで、付き合ったどんな人よりもドキドキする。

 心臓が持たない。

 そんな気がするんだ。

「あのな」

「は、はい!」

「俺が遠慮しないってことは、これから女扱いするんだし、早く慣れろ」

 溜め息混じりにブロッコリーを眺めながらの呟き。

「そんな事を言われてもぉ……」

「だいたいなんだ、そんなに畏まるな。不気味にしか思えない」

「不気味って言われても……」

「付き合う前の方が遠慮がないってのは、いったいどういう事だよ」

「え……っと」

「イライラするんだけど」

「だって……」

「なんだよ」

「自分から好きになった人と付き合ったのって初めてなんだもん!」


 叫ぶ様に言って、ソファーに突っ伏す。


 そして、沈黙。


 何か言え……

 てか、言ってほしいです……。

 とっても恥ずかしいデス。

 半泣きになりそうなくらい恥ずかしいデス。


「ああ……そう」

「それだけ……っ!?」

「他に何を言えと言うんだ」


 ………まぁ。

 宇津木さんらしいよね。

 ちょっと落ち着いたよ。

 そもそも、そんな不器用な優しいとこに惚れたんだから仕方がない。

 そう思って顔を上げたら、キッチンの宇津木さんとバッチリ目が合った。

「何となく解った」

「はい?」

「お前の場合、気をそらせればいいんだろうな」

「はい?」

「気にするな」


 言ってる意味が無茶苦茶だけども!?


 何を企んでる。

 どんな風に何を企んでる!?


「ともかく……」

 ともかく!?

「飯作る」

「あ……は、はい」


 何だか上手くはぐらかされた気がする。


 そんな器用な事、宇津木さんに出来るとは思ってもみなかったけど……

 トントンと言うよりは、トトトンと動いている包丁捌きに見入ってしまう。
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