シャッターの向こう側。
「お前。コイツのせいで人物撮るのやめただろ」

 ピラッと出して来たのは、昨日も見た学祭のスナップ写真で──……

「……や。それはどうだろう」

「実際、その後は……人物が写り込んでいても風景の一部としてしか捉えてない」

 それはそれは不機嫌そうに言われて、天井を見上げる。


 そうかもしれない。

 でも何とも言えない。

 それくらいに記憶が曖昧。

 つまりは、懐かしい思い出になっちゃってる……

 そんな感じ。


 でも、これって嫉妬かな?

 多分そうだよね?

 だったら……


 ちょっと嬉しいかも。


 にんまりと笑うと、宇津木さんは訝しげな表情で眉をひそめた。


「……何だよ」

「私、仕事では人物撮るのやめちゃったかもですが、撮りたいと思った〝人〟もいるみたいですよ?」

「は?」

 テレビの下の引き出し。

 そこから、現像はしたけれど、秘蔵していた写真を取り出した。

 それを不機嫌そうなままの宇津木さんに渡して、空いているソファーの隣に座る。

 それから怪訝そうな顔で、渡した写真に視線を落とした。


 黙って写真をめくる宇津木さん。



 その表情は最初ポカンとして……



 それからちょこっとだけ困った様になって……



 最後には、気まずそうに私を見た。




 最後の一枚は、とても思い入れがある。


 薄灰色の広葉樹。


 それに手を伸ばす男性の姿。


 木陰の暗さと道の明るさ。


 光と影の絶妙なコントラスト。



 光と影だけの世界……



「無意識って……本当に困りますね?」


 そう言った私から……


 宇津木さんはやっぱり、困った様に視線を反らすだけだった。










 2009.8/3


 fin.
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