シャッターの向こう側。
 黙々と食べている宇津木さんを見て。

「…………」


 ちょっとばかり、申し訳なくなった。


 ……なんて言うか、

 無理矢理、食べて欲しいって訳じゃなかったんだけど。

 ただ、不思議だなぁ……って。

 少し思っただけなんだけれど……ね?


「……雪」

「ん?」

「……悪い」

「は?」

 突然、立ち上がった宇津木さんを見上げる。


 ……て、顔色悪い。


「トイレ借りる」

「はぁ!?」

 走るようにトイレに向かう宇津木さんを、慌てて追い掛けた。

「ちょ…っ」

「見逃せ」

 いや、見逃すも何も。

 閉められたトイレの向こうで、具合の悪そうな声。


 何か気持ち悪いものでも入っていた!?

 え。私は平気なんだけれど?

 え。もしかして、私は味オンチ?

 実は知らなかった?

 何事!?


「宇津木さぁん!?」


 そして、トイレに立て篭もる事30分。

 実に憔悴しきった、具合の悪そうな宇津木さんがよろよろと出て来た。


「……あの」

「何でもない」

「でも……」

「いいから」

 手を振る宇津木さんを、覗き込む。

「何ヶ月なの?」

「は……?」

「だって、そうなんでしょう?」

「何がだ」

「だって、ツワリなんでしょう?」

「誰がだ!」

「いひゃいっ!」

 思いきり頬っぺた抓られてジタバタすると、それはそれは冷たい目で見下ろされた。

「誰がツワリだ! だいたいお前なら解るが、なんで男の俺がツワリなんだよ!」

「私だってツワリじゃないよ! だいたい、ちゃんとつけてるじゃんか!」

「朝からなんてコト言ってるんだお前は!」

「言わせたの宇津木さんだもん!」

「お前が先だろうが!」

「違うもん!」


 何だか不毛だ。

 そう気付いて、お互いに溜め息をつく。


「とりあえず、お茶淹れます」

「……ああ」
< 364 / 387 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop