シャッターの向こう側。
******





「神崎ちゃん。コレ頼まれてくれない?」

 にこやかな有野さん。

 差し出された封筒と、有野さんの顔を交互に見る。

 いつもなら、他の部の仕事でも宇津木さんが持ってくるんだけど。


「宇津木、休んだだろう?」

「風邪らしいです」

「うん。だから、コレを宇津木に届けて?」


 ああ! なるほど!


「仕事の依頼かと思いましたよ」

「それならどんなに期日が近くても、宇津木が出社してから渡すよ。後が面倒だからね」

「……へぇ」

 それはどんな後だろうか。

 有野さんて、いまいち掴めないよね~?


「んじゃ、預かります」

「はいはい。寄り道しないでね?」

「はい」


 封筒を預かって、部署を後にした。


 でもラッキーかも。

 仕事だバイトだ……と、最近バタバタしてて、宇津木さんの顔を見てないんだよね。

 昨日電話した時に風邪ひいたって聞いて、お見舞いに行くって言ったら……


『うるさいから来るな』


 …………。



 うるさいって何!?

 仮にも彼女に対して〝うるさい〟って!

 だいたい風邪引いたって言われたら、心配するのが当たり前でしょうが!

 彼氏が……って言うか、人として当たり前だと思うんだけど!

 それをあの男は…っ!



「神崎ちゃん……そんな所で何握りこぶし握ってるの?」

 顔を上げると、加納先輩。


 爽やかなブルーのブラウスに、スリット入りのタイトスカート。

 垣間見える太ももは……


 柔らかそう。


「いつみてもそそりますね」

「何を変態オヤジみたいな事を言ってるのよ」

「そんなぁ~。エヘエヘ言ってないじゃないですか」

「……貴女の変態のイメージが解りやすいけど、どうしたの? 宇津木君はいないわよ?」

「知ってます。有野さんの仕事を受けてたので、渡しに来てただけです」

「ああ……なら暇?」

「いえ。この封筒を宇津木さんに持って行くのを頼まれてまして……」

 先輩はふっと私の手元を見て、それからニンマリと笑う。

「そう。その方がいいわね。ちゃんと看病するのよ?」

 そう言いながら、加納先輩は去って行った。
< 368 / 387 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop