シャッターの向こう側。
*****
日本がバブル時代と呼ばれたのは、俺達がほんの子供だった頃。
ほとんど荒れ地同然の土地が〝新開発〟という大義名分のもとで次々と開発されていき、そして不況の波と共にその土地は忘れ去られていく。
着工途中で放置されたビルは、ある意味で象徴的だ。
太陽は沈んでしまったが、その名残の光がビルを薄闇に浮かび上がらせる。
闇色から濃い藍色、藍色、そしてくすんだ青……
その藍色と青の間に、そのビルはあった。
「……一番苦手な場所だろうな」
独り言を呟いて、溜め息を吐く。
連絡があったのは、昼休みが終わって、資料室で使える写真を探していた時だ。
『あ。宇津木さん?』
付き合い始めてからしばらく経つ。
未だに苗字を呼ぶ事に目を細めた。
「何だ」
『宇津木さんて、やっぱり仕事しててもスマホでるよね』
「用がないなら切るぞ」
『あー! そんな冷たい事を言わないでっ! お願いがあるの』
「……お願い?」
そうは見えないが、まわりに合わせて、実は自分を押し殺してきた女。
最初の頃は、自己主張が激しくて使い物になりにくく、しばらくすると、使いやすくはなったが面白みのない写真を撮るようになった。
それでも、頑固さだけは変わらなかった。
はずなのに、
「お前が、お願い?」
『いけませんか?』
いけなくはない。
ただ……少し奇妙な気持ちになるだけだ。
「何だ」
『それが……廃墟を撮って来て欲しいっていわれまして』
廃墟?
「誰からの依頼だ?」
『有野さんからです。ゲームの宣伝だそうで』
「………ああ」
思わず目を瞑る。
そういえば、数日前に有野さんが聞いてきた。
「神崎ちゃんに苦手なモノってある?」
それに対して、恐いものが苦手だと答えた記憶がある。
有野さんには、後で文句を言おう。
「それで、急ぎか」
『明後日までだそうで……』
「解った。場所を教えてくれ」
そして、ここに来たわけだが……
日本がバブル時代と呼ばれたのは、俺達がほんの子供だった頃。
ほとんど荒れ地同然の土地が〝新開発〟という大義名分のもとで次々と開発されていき、そして不況の波と共にその土地は忘れ去られていく。
着工途中で放置されたビルは、ある意味で象徴的だ。
太陽は沈んでしまったが、その名残の光がビルを薄闇に浮かび上がらせる。
闇色から濃い藍色、藍色、そしてくすんだ青……
その藍色と青の間に、そのビルはあった。
「……一番苦手な場所だろうな」
独り言を呟いて、溜め息を吐く。
連絡があったのは、昼休みが終わって、資料室で使える写真を探していた時だ。
『あ。宇津木さん?』
付き合い始めてからしばらく経つ。
未だに苗字を呼ぶ事に目を細めた。
「何だ」
『宇津木さんて、やっぱり仕事しててもスマホでるよね』
「用がないなら切るぞ」
『あー! そんな冷たい事を言わないでっ! お願いがあるの』
「……お願い?」
そうは見えないが、まわりに合わせて、実は自分を押し殺してきた女。
最初の頃は、自己主張が激しくて使い物になりにくく、しばらくすると、使いやすくはなったが面白みのない写真を撮るようになった。
それでも、頑固さだけは変わらなかった。
はずなのに、
「お前が、お願い?」
『いけませんか?』
いけなくはない。
ただ……少し奇妙な気持ちになるだけだ。
「何だ」
『それが……廃墟を撮って来て欲しいっていわれまして』
廃墟?
「誰からの依頼だ?」
『有野さんからです。ゲームの宣伝だそうで』
「………ああ」
思わず目を瞑る。
そういえば、数日前に有野さんが聞いてきた。
「神崎ちゃんに苦手なモノってある?」
それに対して、恐いものが苦手だと答えた記憶がある。
有野さんには、後で文句を言おう。
「それで、急ぎか」
『明後日までだそうで……』
「解った。場所を教えてくれ」
そして、ここに来たわけだが……