シャッターの向こう側。
 頼んできた本人がいないのはどういう事だ。

 眉をしかめて、腕を組む。


「…………」


 まぁ、いい。

 あいつは真剣になると場所は忘れる……

 と、すると作りかけのビルだ、足元に何があるか解らない。

 先に確認しておこう。


 本来ならガラスの扉か自動ドアがつくのだろう場所を通り過ぎ、辺りに目を凝らす。

 本来、窓のある所から街灯の明かりが入り込んでいるが、それ以外は闇が濃い。


 間違いなく、ここはあいつには鬼門だな。

 何せ作り物と解っている『お化け屋敷』でもお経をあげはじめる奴だから。

 まぁ、それを逆手にとった事もあるが……


 持っていた鞄からペンライトをつけ、サッと辺りを照らす。

 小さなペンライトだけでは、全体を見る事はできないが……

 がらんとした空間は、コンクリートの灰色だけが見えた。


 歩くと、足音がその空間に響く。


 その音が耳障りになって、出来るだけ足元を忍ばせた時、暗闇の奥で小さな音がした。



 カサ……ではなく。

 本当に小さな、カララ……という乾いた音。


 吹き抜けのビルだ、風が入って何か小石でも転がったか……

 いや、小石があるか?

 あるならあるでいいが……

 いや、駄目だな。


 たぶん、そんな音でもあいつは反応しそうだ。

 叫び声を上げて、抱き着かれるのは嬉しいが、その後に宥めるのが面倒。

 それも楽しいと言えばそこまでだが、そのきっかけが仕事を依頼した有野さんと言うのが気に入らない。


 奥に向かって進むと、また音がした。


 今度は背後で。


 サッとペンライトを向けても、そこにあるのは暗闇ばかり……


「…………」


 さすがに、この雰囲気は不気味だ。
< 382 / 387 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop