シャッターの向こう側。
「神崎さんて、宇津木と仕事初めてなんだよね?」

「そうですね。初めてです」

 というか月曜日に出社してみたら、棚から牡丹餅の如くイキナリ出張が決まってましたけど。


 と言うか……


「宇津木さんて、誰かと組んでやってるのを見たことがないです」

「うん。まぁ、そう見えるだろうけど、こういう仕事は一人じゃできないよ……」

「そうでしょうけど、一年隣の席やってますが、誰かと話してるの見たことないです」

 そりゃ、電話で話してるのは見たことあるけれど、いつも隣でパソコンと睨めっこしてる。

 誰かが話しかけてくる事もないし、私が写真選びに一日中デスクにかじりついていても、席を立つのはお昼ご飯かコーヒーを買いに行く時くらいだ。


 ……なんか。


「友達のいない人みたいですね」


 呟いた瞬間に、スパンと頭に衝撃。

 危うく舌を噛みそうになって、慌てて肩を竦める。


「お前。人を根暗の様に言うな」

 見上げると、やっぱり宇津木さんがファイルを持って立っていた。

 ……坂口さんも教えてくれればいいのに。


「タチギキワハシタナイデスヨ」

「棒読みで諭されても聞けんな」

 宇津木さんは持っていたファイルを坂口さんに差し出しながら、私の隣のソファーに座った。

「とりあえず、ここの広報部からの要望。大したことは書いてないが、部屋は確保出来たぞ。このカードが部屋の鍵」

 淡々と話を進めて、ちらりと私を見る。

「……で?」

「で?」

「決まったか?」

「イキナリそんなこと言われたって困りますが」

 そう言うと、宇津木さんはニヤニヤとメニューを示した。

「夕飯いらないならいいんだけどな? ダイエットか?」

 ……ダイ……ダイエット?

「セクハラだ~」

「お前のどこをどう見れば、俺がセクハラしたことになるんだ」

 そりゃどういう意味だ。

 別にダイエットなんぞはしてないけど、ちょっとカチンときてしまうぞ?

「ダイエットしたがる奴、多いよな」

 私からメニュー表を奪って、宇津木さんは淡々と呟いている。

「まぁ、ピヨピヨには関係ないか。人間じゃないしな」

 こ……この男は!!!!
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