シャッターの向こう側。
「だから……お前は、来るのが少し早いんだよ」

 宇津木さんは視線を坂口さんに戻し、セットについてきたワカメスープを飲んで顔をしかめる。

「これ、旨くない」

「あ。そう」

 慣れてるのかなんなのか、坂口さんはそんな言葉をスルーして、ワカメスープを掻き混ぜた。

「どっちにせよ、お前らを待ってるだけ時間が勿体ないよ」

「ウェブページの方は、そんなに急いでないが?」

「急いでなくてもな。お前に合わせるとすると、時間なんてあってないもんなんだ」

「俺に合わせてる訳じゃなくて、お前が細かいだけだろう」

「人の事を言えた義理か」

 坂口さんもスープを飲んで、急に私を笑顔で振り返った。

「……て、訳でピヨピヨちゃん」

 ……ピヨピヨちゃんが、定着してしまったらしい。

 ものすんごい嫌なんだけど。

 目を細める私に、宇津木さんがこっそり足蹴りをしてきた。

「何を不服そうな顔をしてるんだ」

「色々と考える所がありまして」

 まぁ、坂口さんに怒っても仕方ないか。

「なんでしょうか?」

 気を取り直して返事をすると、坂口さんはまったく気にした様子もなく、にっこりと頷いた。

 ……何て言うか。

 この笑顔がくせ者な人だ。

「うん。写真。出来たらこいつ用と俺用で2枚は用意して欲しいんだ」

「2枚ですか?」

「こいつ、決めるの遅いから、俺は俺で仕事を進めたいし」

 ……ええ!?

 何かとっても遠慮なく言う人だな。

 驚いている私の隣で、宇津木さんが腕を組んだ。

「……人を鈍臭い奴呼ばわりしないでくれないか?」

「別にそんな事は言ってないさ。だけど、お前の了承なんて待ってたら、こっちは全然取り掛かれないし」

「…………」

 ……おおっ。

 宇津木さんが黙った!

 なんか凄いじゃないか坂口さん!!

 思わず拍手をしかけ、隣の冷たい視線に気がついた。


 ……何で気がつくかな。


「いい度胸だな」

「何の事ですかぁ~?」


 視線を逸らしてすっとぼけてみたけど、もちろん通じる人じゃない。


 無言でグリグリと頭を挟まれる。

「痛い! 痛いですって!」

 そんな中、坂口さんは我関せずでスープを美味しそうに飲んでいた。















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