シャッターの向こう側。
「もう……食べ終わったの?」

「はい」

 何しろ、適当なものだと宇津木さんに却下される。

 ……それはそれでムカつく。

 そうならないためには、妥協は禁止事項になる。

 ……とすると〝写真家〟としては全く時間がない。

 いつ何処で、その瞬間を逃してしまうか分からないし。

 早く食べるのなんて、慣れっこだ。

「んじゃ、行ってきます」

 トレイを持ち上げると、宇津木さんは首を傾げた。

「今日の予定は?」

「未定です。とりあえず、ザッと見て回って、良さそうな所を探します」

「表に行くつもりか?」

 ん~……

 だから、決めてないんだって。

「18時くらいになったら写真館で現像して来ますから、帰りは20時過ぎになると思います」

 最後の予定だけ伝え、片手を上げると荷物を肩に下げて歩きだした。

 雨降りには、けっこう植物系を撮るのが好きなんだけど……

 トレイを返却口に返し、とりあえずはホテルのフロントでビニールのレインコートを買ってから、それを着込んで自動ドアを出た。

 機材が入ってる荷物は、防水加工のバックだから濡れる心配はないけど、問題はカメラかな~。

 薄暗い空を見上げて、首を傾げる。

 ……個人としては、雨降りの写真ってのも、なかなか好きなんだけど。

 前方に広がる緑の深さに、少しだけ苦笑した。

 光がちょっと難しい所かもしれないな。

 まぁ、そこはそれでどうにかなると思うし。

 雨が上がってくれたら、とってもラッキーなんだけどな~……



 などと思いつつ、いつも以上に人の少ないシャトルバスに乗る。

 シャトルバスに乗っているのは数人。

 どの人も傘を持ち、各々窓から見える風景を楽しんでいる。

 ふんわりと雨の匂いと、微かな湿気がバスの中に閉じこもって、独特の雰囲気を出していた。


 なんだか、高校時代を思い出す。


 あの当時は、雨が大嫌いだった。


 制服が雨に濡れて、重くなるのが大嫌いで……

 髪型も雨の湿気でまとまらないのも大嫌いで……

 制服のスカートは、プリーツスカートだったから、綺麗にアイロンをかけられたプリーツが、雨だと線が曖昧になって嫌。


 ……いつから、好きになったんだろう。
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