シャッターの向こう側。
 考えてみて、あっ……と小さく呟いた。


 専門学校の最後の年だ。


 当時は自転車で通ってたけど、雨降りだけはバスを使っていた。

 私がバスを待つ反対側の停留所の向かい側に、とてもカッコイイ人が居て、それを眺めているのが大好きだった。

 顔はもうさすがにうろ覚えだけど、大学生くらいだったかな。

 いつも何かの本を読んでいて、その立ち姿が凜としていて大好きだった。

 傘を持ってると、視線はけっこう隠しやすいし……

 そうやって眺める事が出来る、雨の日が大好きだった。

 ……なんて単純な。

 と言うか、なんて女の子らしいんだ。

 思わず吹き出すと、前の席の家族連れに振り返られた。


 ……怪しい人じゃありませんよ。


 咳ばらいをして、表情を引き締める。

 ま。

 何かを好きになるのは、ホントは些細な事で、単純なものかもしれないな。

 でもそれに気付くのは、なかなか難しい事なのかも知れない。

 ふと視界に入った小さな広場に視線を向けると、思わず【降車】のボタンを押していた。


 何あれ。

 なんか面白そう!


 って、気持ちがたくさん。


 雨降りの地面に降り立って、下ろしていたフードを被る。

 さっきよりは小雨になってた。

 ビニールに当たる雫が、サラサラと足元に流れていく。

 その様を眺めて、歩き出す。


 着いた先は本当に小さな広場だった。


 まわりの木はまだ緑色だけど、葉の形から銀杏の木だと判る。

 それから中央に、薄桃色のちょっと一風変わったハートのオブジェ。

 外灯は一つ。

 オブジェの前に、二人掛けのベンチが一つ。

 ……とても可愛らしいベンチで、ちょっとロマンティック。

 足元にはチューリップ。



 ある意味、意図して作られた空間に見えた。



 題すると『恋人達の公園』?


 ナニソレ。


 私にネーミングセンスを求めないで欲しいかな。

 と、自分で自分に突っ込んで、にんまりする。


 まぁ、誰も私にコピーライターになれとは言わないだろう。

 さくさくと広場内に入り、荷物を片手に首を傾げた。
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