シャッターの向こう側。
「失礼な驚きをすみません」

 頭を下げると、まだ被っていたレインコートのフードから、雫が滴って背中に落ちて来た。

「うひょおぅ!!」

 冷たさに飛び上がった私に坂口さんは目を丸くする。

「大丈夫?」

「だだ大丈夫です!」


 てか、変な声を出しちゃったよ!


 赤面する私に、坂口さんはクスクスと笑っているし。


「……面白いねぇ」


 私は全然、面白くともなんともないですからねっ!


「ところで、神崎さん」

 坂口さんは笑いを納めて、くりっと首を傾げる。

「昼飯は食べた?」

「あ。いえ。これから食べようかと」

 レインコートを外しながら言うと、坂口さんは頷いてくれた。

「じゃ、一緒に食べようよ」

 別に構わないけど……

「宇津木さんは……?」

 どうしたんだろう?

「あいつは野暮用で広報部に行ってるよ。別に保護者なしでもいいでしょ」

 思いきり首を傾げる。


 ……保護者。

 とな……


「宇津木さんは保護者には見えないんですが……」


 どちらかと言うと、ムカつく上司?


 いや。

 基本的に今回このテーマパークでは、チームリーダー的な人だけど……

 普段はムカつくお隣りさん。


 ……確かに、お子さま扱いされているような気がするけど。

 なんて言うか、人間扱いはされていない気がひしひしとする。


 ……どちらかと言うと、ペット?


「……なんか、怒ってる?」

 坂口さんの言葉に、ニコヤカに顔を上げた。

「いえ! さぁさ、宇津木さんはどうでもいいんで、何を食べましょうか?」

 坂口さんに八つ当たりしても、それこそしょうがないし。

 気を取り直してズカズカと歩き出した私を、坂口さんはニコニコと追ってくる。



 このニコニコが、逆になんだかとっても怖かったけど。

 話してみると、単になんでも楽しむ人なんだと思った。

「これが仕事って思ったら凄くやりたくなくなるじゃない? だから、俺は趣味の一貫だと思うようにしてるわけだ」

 そう言う坂口さんに、ドリアを食べながら首を振る。

「そう思えればいいんですが。どうしたって、広告だと相手の意見も飲まないといけないじゃないですか」
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