シャッターの向こう側。
「そりゃ広告だから。だけどね、何も言いなりになる事もないんだよ」

 坂口さんはサンドイッチを食べながら、コーヒーを飲む。

「あれだよ。クチバシを挟んでもらいたくなかったら、ある程度の位置は必要だね」

「位置……ですか?」

「そう。まずは相手の要求をビシッと押さえる。そうしてから自分のしたいように相手を動かす」

 ……解るような、解らないような……

「あくまでもビジネスだからね。相手の意向は無視できない。やることやってれば多少脱線しても、大概は許される」

「……そう、なんですか?」

 坂口さんは頷いて、人差し指を立てる。

「例えば、宇津木が何もせずにホテルで待っていて、ボ~っとしてる奴なら」

 坂口さんはニコヤカに、そこでクスクスと笑った。

「そんな奴にダメ出しされてしまうと、何を見て言ってるんだこいつは……と、思わない?」

「それは当たり前ですよ」

「だけど、宇津木の場合、撮影にもついていくだろ?」


 言われて頷いた。


 確かに、意味が不明について来た。


「どんな有名なカメラマンでもね、大概はそうやってる。同じ目線で同じモノが出来上がるか、それを見たいんだと」

「宇津木さんから、指示が出たことないですが……」

 それどころか、好きに撮っていいと言われてる。

「うん。俺もウェブページについて、何か言われた事はない。ただ、ダメな時はスッパリやり直しをくらう」

 坂口さんはニッコリしながら、足を組んで私を見た。

「神崎さんて、へこたれないよね」


 ……はぁ?


「そんな事はないですよ」

「そう?」


 正直、仕事はなぁなぁだったし、やる気もたいしてなかったし……


 だけど、言われるとグサッと……


「いやぁ……神崎さんて、宇津木に叩かれまくってるでしょ?」



 ……そっちかい。


 思わず目を細めると、坂口さんがにっこりと小首を傾げた。

 ……私より年上なのに、行動がとてもかわいらしく見えるのは何故なんだろ。

「去年まで、宇津木の隣の席に移動した子は男でも女でも、やめるか移動願い出してたから。根性あるんだな~と、感心してたよ」


 ……そんな事で感心されてもねっ。
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