シャッターの向こう側。
「……ご馳走様です」

「え。俺はおごらないよ?」

「食べ終わったら、ごちそうさまと言うのが普通ですっ!」

 この人も、宇津木さん同様に訳のわかんない人だなぁ。

 プラスチックグラスに入れられた伝票を取り、荷物を持つと立ち上がる。

「……どこ行くの?」

「ホテル内部を見て回ってから現像に行きます」

 出来るだけ静かに呟いて、会計に伝票を出すと、面倒なんでまとめて払う。

 そうしてからカフェを抜け、フロントのあるホールに着くと、上を見上げている宇津木さんを見つけた。



 ……何をしてるんだろう。



 近づいて行きながら、宇津木さんが見上げている方を振り仰いだ。


「……凄い」


 ついて出たのはその言葉。


 ホールの天井は大きなガラス張りになっていて、そこには青々とした広葉樹の葉が生い茂っている。


 一面が綺麗な緑色。


 明るい太陽の光に似た照明がとても映える。


「ユグドラシル……か。北欧神話だな」

「神話ですか?」

 見下ろしてきた宇津木さんと、ちらっと目があった。

「神々の黄昏とか、ルーン文字とか、ノルンとか……」

「ギリシャ神話のポセイドンなら知ってます」

「何故、ゼウスじゃないんだ?」


 ……その不服そうな顔はなんですか。

 だいたい、いきなり〝北欧神話〟の話なんか持ち出されても、全然知りませんよ。


「お前と話してると、馬鹿になりそうだ」

 溜め息をつかれ、ムッとした。

「ちょっと、ひどくありません?」

「少しは勉強しろ」

 書類ケースから数枚の書類を出し、突き付けられて受け取る。

「どうせお前は全然書類なんて目を通してないだろ」


 ……あはは~うふふ~。


 視線を外すと、頭を叩かれた。


「俺はお前に指示を出すつもりはないからな。自分の頭で考えろ」

 そう言って、スタスタとカフェに向かう宇津木さんを見送った。


 確かに、書類に目を通してないのは職務怠慢かもしれない。


 だけど、今までのクリエイターの人は、自分のイメージ通りになる画を求めて来たから……


「…………」


 渡された書類に視線を落とし、唇を引き締める。
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