シャッターの向こう側。
 またまたきょとんとした坂口さんに、思わず笑ってしまう。

 これは素なのか、わざとなのか。

 年上なんだろうけど、しぐさがホントにかわいいというか、何と言うか?

「そんな訳ないじゃない。相手側の社用車を借りてきたんだよ」

「えぇ!? そんな事出来るんですか?」

「そりゃ必要なら貸してくれるでしょ? 何台か用意してるって宇津木が話してたから、借りたんだけど」

「えぇ~。全然知りませんでしたぁ。それなら私も借りたのにぃ」

 それならタクシー代もかからなくて済むし、いろいろ出来るじゃないか……

 ブツブツ言うと、坂口さんは面白そうに笑っている。

「神崎ちゃん、免許持ってるんだ?」

「人並みにありますよ。ほとんど使わないですけど」

 出勤する時は車を使うより交通機関使った方が早いから、車を使うのは必要な時か、休みの日くらいだけど。

「宇津木はきっと、免許なんて持ってないと思ってるんじゃないかな? あると知っていたら、言うと思うし」

「……どこまで馬鹿にすれば気が済むんでしょう」

「いや……馬鹿にしてる訳じゃないと思うんだけど。君の中の宇津木像って、かなり最悪なんだね」


 最悪にもなるでしょうよ。

 というか、あの人のせいで性格が斜め45度くらい曲がったような気がするし……

 素直な私、カムバック。

「俺じゃないからいいけど」

 坂口さんは明るくそう言って、白い軽自動車の前に来ると、ポケットからキーを取り出してボタンを押した。

「どうぞ?」

「あ。ありがとうございます」

 助手席側のドアを開けてくれた坂口さんにお礼を言って、車に乗り込んだ。

 どちらかというと埃っぽい。

 車独特の芳香剤の匂いもなく、カランとした車内。

 なんだかレンタカーっぽい。

 生活感の欠片もないな。


 ……まぁ、社用車なら普通当り前か。


 なんて考えている時、坂口さんが乗り込んできた。

「シートベルトは付けてね」

「あ。すみません」

 やたらと引き出せないシートベルトをつけ、どうにか装着すると、坂口さんは車を出しながら空模様を見た。
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