シャッターの向こう側。
「明日は晴れるって言うけど、ホントかなってくらいに降ってるね」

 つられて、町中の光に雲が反射してどんよりな紫色の空と、フロンドガラスに流れる滴を見る。

「でも、昨日よりは全然小雨ですよ」

「そう?」

「昨日の朝からお昼前まで、土砂降りでしたもん」

 坂口さんは眉をしかめ、唇をすぼめた。

「そう言えば、昨日、外にいたんだね」

「はい。何か面白いものはないかしら……と」

「それ。もしかして風邪薬だったよね?」

「え?」

 言われて、薬局のビニール袋を眺めた。

「ごめんね、気づいてあげられなくて。びしょ濡れだったのに、お昼に誘っちゃったね」

「えぇ!? なんで謝るんですか!?」

 坂口さんはハンドルを切ると、ポリポリと鼻の頭をかきながら苦笑した。

「だって風邪ひいた訳でしょう? それなら、責任の一端は俺にあるじゃない」

「ないですよ~。これは私の体調管理の悪さのせいなんですから。坂口さんは全然気にしなくていいんですよ!!」

「いやぁ……でも」

「いちいち気にしてたら、ハゲますよ!」

「…………」

 坂口さんは一瞬押し黙り、次の瞬間に吹き出した。

「そ、それって、フォローのつもりなのっ!?」

「え……そんなつもりもありませんが」

 よく判らないけど、坂口さんはホテルに着くまで笑い続け、笑われながらホテルの前で降ろされた。

「それじゃ、俺は車を返してくるね」

「あ。はい。ありがとうございました」

「うん。じゃ、写真、明日見せて。今日はゆっくり休んでね?」

 にっこりと微笑む坂口さんに頭を下げ、ホテルの中に入ると大量の写真の入った袋を眺める。


 うーん。


 坂口さんは明日でいいって言ってたけど……


 宇津木さんには今日見せるって言ったしな……

 ロビーを見渡すと、数名のスーツ姿が見えるだけ。

 部屋に持って行っちゃえばいいか。

 そう思って、エレベーターに乗り込むと、10階のボタンを押す。


 宇津木さんは同じ階の、確か反対側の部屋。

 エレベーターを降りて、いつもとは逆の方向に歩きだし、宇津木さんの部屋を捜す。


「あ。ここだ」


 最初に教えてもらった部屋番号の前に立つと、ノックをした。
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