シャッターの向こう側。
「あー……まぁ、いいや。どうせ話してても疲れるだけだから、何か飲むか?」

 そう言って、バーカウンターの冷蔵庫を開ける宇津木さんを眺める。

「じゃ、お水下さい」

「水?」

 不思議そうに顔を上げる宇津木さんと目が合って、薬局のビニールを掲げた。

「薬飲んじゃうんで」

「薬?」

 ……君は急に単語しか話せなくなったのか!?


「風邪っぽいんで、予防に」

 表情に、訝しげな色が見えた。

「なんですか」

「飯は?」

「まだですけど」

「薬は食間? 食後?」

「確か食後」

「食ってから出直してこい」


 出直さなきゃいけないのか!?


 びっくりしたら、宇津木さんは何故か諦めモードの溜め息をついた。

 いきなりスマホを取り出すと、どこかに電話をかけ始めた。

「お前はちょろちょろしてないで座ってろ」


 ……まぁ、言われなくても座る気でおりますが。

 ソファーに近づいて、閉められたオフホワイトのカーテンをチラッと開ける。


 暗闇に映る大きな円形の電飾。


 たぶん遊園地の観覧車。


 ……ここからだと、それが真っ正面に見えた。


「アングルには持ってこい」

 ぼそりと呟くと、背後から無言で服の襟首を引っ張られる。

「ぐほっ……!!」

「いいからっ! お前は座っていろ!」

 電話をしつつ、宇津木さんに引っ張られてソファーに座らされた。


 だから!!

 あんたは私を殺す気か!!?


「お前はいい加減にしないと、マジで怒るぞ」


 と言うか、今までは冗談だったんだろうか?

 とても本気に思えてたけど。

 マジに怒られたら……


 ちょっと怖いから大人しくしておこう。
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