シャッターの向こう側。
 それなら、ちょっと怖いかもしれない。


「……ふぅん?」

 と言う、坂口さんの呟きにもドキドキする。


 何て言うの?


 フォトコンテストの応募より緊張するかも。


「……ピヨピヨ」

「は、はい!?」

「ちゃんと良く噛んで食えよ」

 写真を見ながら、宇津木さんは顔も上げずに呟いた。


 ……あんたは本当に私の親父気取りか?

 目を細めると、声も出さずに坂口さんが笑う。

「ちゃんと面倒みてるんだねぇ」

「何のことだ?」

「べっつに~?」

 宇津木さんはパラパラと写真を見て、ニヤリと笑った。

 それから、最後の一枚を手にしたまま私を見る。

「まぁまぁ。お前らしいんじゃないか?」

 おにぎりを飲み下して、宇津木さんを上目使いに見上げた。

「使えそうですか?」

「数枚だな。ウェディングスィートは広告として必須だろうが、VIPルームは向きじゃない。VIPだけが来るところじゃないし、どちらかと言うと家族向きの施設だから」

 あ。

 なるほどなるほど。

 VIPルームは一泊10万位するって聞いたから、確かに一般向けじゃないね。

「まぁ、そういうのも作れと言うなら相手次第だな。VIPルームにはどうやって入ったんだ? 広報部には交渉してないと思っていたが」

「や。夜中にうろつく不審者扱いされて。ホテル側の支配人にとっ捕まったんです」

 もぐもぐと呟くと、二人同時に吹き出した。

「ふ、不審者!!」

「ありえそうだな」

 そのありえそうだってのはなんだ。

 宇津木さんを睨むと、彼は咳払いしてソファーに寄りかかった。

「お前のことだから、夜中にずっとカメラ構えてたんだろう?」

「はい」

「それなら仕方がないだろう」

 まぁね、夜中も夜中、真夜中に、一人ホテル内をうろついて、エレベーターだの、天井だの、よく判らない所を撮っている人物がいたら明らかに不審者だよね。

 実際、捕まった時に私も思った。
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