シャッターの向こう側。
「おい。起きろヒヨコ」


 低い声に薄く目を開けて、


「……眠い」


 また閉じる。



 次の瞬間、ガツンとおでこに衝撃が走った。



「……っ!……っ!?」

「今のは俺のせいじゃないぞ」

 キョロキョロとおでこを押さえたまま隣を見ると、丁度、宇津木さんは書類をケースにしまうところだった。

「T市だから声をかけたら、お前が勝手に窓にぶつかりに行っただけだ」

 淡々と状況を説明される。

「はぁ……」

「お前、よく生きて来れたな」

「は?」

「会社でもよく顔面から転んで、馬鹿みたいだった」

「ばっ……!!」


 馬鹿みたいだとぅ!!!?


「行くぞ」


 またしても掴み掛かろうとして、ぱたりと空の座席に突っ伏した。


 冷たい視線が降ってくる。


「…本気で馬鹿だな」

 不敵に笑われて、シートベルトを睨み付けた。


 モノに当たっても仕方がない……


 仕方がないんだけどね……!!


 半泣きになりながら、シートベルトを外して立ち上がる。

 それから預けた荷物を受け取り、T市に降り立つと、空気はすっかり夏だった。

 太陽の光が、目の前の噴水の水をキラキラと反射させる。

 それがとても綺麗。


「さすがに南の方になると、まだ春先なのに暖かいですね~」

 清々しくもあり、少しだけ気怠い……そんな季節。

 思いきり両腕をあげて伸びをすると、宇津木さんが空を見上げて苦笑した。

「お前は、天気がいいとご機嫌だな」

「はいはい。どうせガキんちょだって言いたいんでしょう」

 軽くいなすと、サングラスの視線と目が合う。


 ……何よ。


 思った瞬間に聞こえた着メロ。

 宇津木さんが胸ポケットから、スマホを取り出した。

 それから、ディスプレイを見て片手を上げる。


 なぁに?


 待ってくれって言うの?


 キャリーケースを傍らに寄せ、噴水の前にあったベンチに座ると、自然と宇津木さんが傍らに立った。


「今、仕事中だから……」


 相手は彼女さんかしら?
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