シャッターの向こう側。
 確かに世の中そう言って、人に仕事を押し付けようとする人もいるんだけどね。

 なんでもかんでも他人に頼っちゃう人。

 悪くはないのかもしれないけど……


 考えてみて溜め息をつく。

 人のことは言えないか……

 なんのかんのと言っても、今まで私は〝自分の仕事〟まで、他の人たちに頼っていたんだし。


「神崎ちゃん」

 坂口さんの声に顔だけ振り向かせ、エレベータのボタンを押す。

「はい?」

「なんか、気のせいだといいけど」

「はい?」

「人に頼りきりになるのと、頼むのとは違うからね?」


 ……はいぃ?


「何だかよく判りませんが」

「うん。なんとなく解って」

 坂口さんはニッコリすると、丁度開いたエレベーターの扉を押さえてくれた。

「どうぞ?」

「あ。はい。どうも」

 エレベーターに乗り、隣に乗り込んできた坂口さんを見る。


「…………」

「俺の顔に何か?」

「いえ。何でもありません」


 慌てて1階のボタンを押して、それから眉を上げた。

 このエレベーターも蝶を模したボタン。

 上を振り仰いで、首を傾げる。

「ここは月なんですね~」

「え?」

 いつも乗っているエレベーターはフロント近くのエレベーター。

 今回、屋上に向かうにあたって乗ったのは、それとは逆側にあるエレベーターだったりする。

 その天井は太陽ではなくって、月の形をしていた。

「ああ。こっちはそうみたいだね~。神崎ちゃんの好みに合った?」


 いや、好みと言うか、そうなんだな~って思っただけなんですが……


「神崎ちゃんて、たまに不思議なところ見てるよね」

 視線を天井から外し、坂口さんを見上げる。

「不思議なところですか?」

「うん。なんとなくそう思っただけ」

 坂口さんはクスクス笑いながら、肩をすくめた。


 不思議なところ……


 私は普通に見ている様な気がするんだけど……


 ……どこを見ているか、なんて事は、本人じゃないと判らないから。


 いや、でも、不思議なのか?


 ……待て、どこがどう不思議なんだ?
< 62 / 387 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop