シャッターの向こう側。
「……あのぅ」

 怖ず怖ずと首を傾げた私に、坂口さんはひょいと眉を上げて唇をすぼめた。

「どこが不思議でしょうか?」

「……どこって言われても……」


 あ。

 なんか困らせた?


 明らかに困り顔の坂口さん。

 別に困らせるつもりはなかったんだけど……


「いえ、何でもないです」

「あ~……えっと、別に変な意味じゃないよ? 気に触ったんならゴメンね?」


 気に触った訳でもないんだけど。


「なんかさ……神崎ちゃんの写真を見ていると、こう……あんまり上手く言えないけど、よく見てるなぁ……って」


 よく見てる?


「俺は建物はただの建物にしか見えないし、植物なんかはただの緑だし? 全体像は見るけど、それがどうだ……っていう風には思わない」

「……はぁ」

 坂口さんは微笑んでから腕を組んだ。

「なんて言うか、そこにあるように感じられる……って言うか」


 私には、何だか言っている意味がよく解らないけど……


 これは褒められているんだよね?


「ありがとうございます」

 頭を下げると、坂口さんは慌てて手を振った。

「あ、いや。これは俺の感じた事だから」

「私の写真で何かを感じて下さったんですから……嬉しいです」

 いいことなんだと思うし。

「うん。それで、何で被写体が打ちひしがれた着ぐるみなのかもよく判らないけど」

 坂口さんの言葉に、ずいっと詰め寄る。

「だって、可愛くありませんでした? 水たまりが涙みたいに見えて」

「可愛いというか……」

「人気のない遊園地! 水溜りに両手両足をつくふわふわしたキャラクター! これ以上の被写体はないじゃないですか」

「普通、そこは撮らないんじゃないかと思うけど」


 ……一理ある。


 普通は見てみないフリをするかもしれない。

 BY 大人な対応。

 いや、でも……

 あの構図、とても面白かったんだもん。


「神崎ちゃんが、不思議なのはよく解った気がするなぁ」

「……………」

 そんな事を言う坂口さんも、とっても不思議な人なんですけどね。

 ……なんて呟きは言わないことにして、一階につくとフロントの前で別れた。
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