シャッターの向こう側。
「痛い……っ!!」

「痛くしたんだ」

 しれっとした顔で言う宇津木さんを軽く睨み、坂口さんに肩を叩かれて振り返る。


「あれに乗ろう、神崎ちゃん」


 坂口さんが指をさしているのは、どこかおどろおどろしい建物。

 白い洋館風の建物。

 綺麗なペンキに、忌ま忌ましい赤い飛沫がチラホラ。

 心臓がお悪い方はご遠慮ください、と書かれた看板。

 そして中からは女性の叫び声と、出口であろう扉からは、小さい子供が泣きながら飛び出して来ていた。


 ……これは。


 俗に言う〝スリラー系〟ですねっ!!?


「あれ。固まった」

 と、聞こえる坂口さんの言葉。


「ふぅん?」

 と、嫌でも聞こえた宇津木さんの呟き。


「ピヨ。苦手か?」


 もちろんっ!!

 人間だれしも苦手な分野はあると言うか、ないと言うか!

 強いて言うならば、へそでお茶が沸騰するくらいに有り得ない話の如く苦手と言えるか言えないか!


「…………」


 いいや!

 ぶっちゃけ苦手だ!!!

 誰がなんと言おうと、苦手なものは苦手なんだから仕方がない!

 私も少しは女らしい弱点があったものだと感心するばかりだ!!


 アハハハハハ!!


 こうなったら、真昼の太陽に向かってもも笑っちゃうよ!


「……ピヨがいつも以上に壊れてるぞ」

「……そう……みたいだね」


 ……ふっ


「大丈夫ですともっ!! さぁさ! ずずずぃ~っと、乗っちゃいましょう!」

 歩きだした手足が同じだろうが、何だろうが、今はこの際関係ない。

「苦手ならやめとこうよ、神崎ちゃん」

 坂口さんに、ぎぎぎぎぃと首だけ振り向かせる。

「そんな事は一言も申し上げておりませぬでござりますよ!」

「そんな青い通り越して土色の顔色で、なんか妙な言い回しで言われてもさ」

「男の二言は格好悪いです!!」

 出来るなら、もう一回止めてくれっ!!

 と言うか、この無意味にしゃべり続ける口を閉じさせてくれっ!!

「本人が大丈夫だって言ってるし。男の二言は気に食わないみたいだから行くか」

 ニヤリと笑った宇津木さんに引き攣った笑みを見せつつ、私たちは〝恐怖の館〟と言う建物に入って行った。
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