シャッターの向こう側。
 私は、暗闇が苦手な訳じゃない。

 暗闇が怖かったら、そもそも暗室の作業なんて出来ないよ。

 定着前のフィルムは光に極めて弱いから、狭くて暗いところなんかへっちゃらちゃらだわよ。


 ゴトゴトと動くカート。


 でもねぇ……


「にゃ~ご」


「うひっ」

「大丈夫だよ、テープの猫の鳴き声だよ」

 隣から、優しげな坂口さんの声。

「あ。はい」


 振り返った先に、と言うか目の前に飛び出して来た長い腕。


「………っ!!!」

「人形の腕だよ、神崎ちゃん」


 ふはっ……

 ふははははっ!!


 どうにも、この青白く暗い空間は苦手過ぎるんだよぅ~。

 もう、どうして止まらなかったかな、この天の邪鬼な言動はどうにかならんものだろうか?

 これが私の人生を、ややこしく複雑に絡み付くかの様に落ち込ませてくれるんだよね。

「どうせ作りモノなんだから、そんなにびくつかなくてもいいだろうに」

 背後に座った宇津木さんの声に、キッとなって振り返る。

「びくついてなんていませんからっ!!」

「なら、ご自由に?」


 いつでもどこでも腹の立つ男だなっ!!


 お互い黙り込んで、前方のゴンドラの人の叫び声に耳を澄ませる。


 そうよ。

 これは作りモノ。

 前の人が叫ぶから、前に何か怖いものがあるのは解ってるわ!

 実際、このブルーライトが赤ければ、作業光をつけてる暗室みたいな感じでもっと落ち着けるんだけど。

 だいたい何なの、なんで世の中にこんな乗り物があるわけ?

 お化け屋敷なら、歩くべきよ!!

 歩けるんなら、それこそ前方の人なんか薙ぎ倒して出口まで猫もまっしぐらだ。


 考えていたらバンという音と共に、飛び出して来たモノに目を点にする。

 青白い光に照らされた、白いドレスの花嫁さん。

 綺麗な微笑みが見え……


 見えたと思った瞬間に、その眼球が勢いよく飛び出して来た。


「……うき!! うきゃきゃっ!!!」

「えっ!? 神崎ちゃん?」

「少しは落ち着けよ、ピヨ」

 これでどうやって落ち着けと!?

 落ち着け、落ち着く、落ち着けるには……



 そうだっ!!
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