シャッターの向こう側。
「うひゃっ!! 神崎ちゃん! 何でこんな所でお経なの!?」

「ある意味、ムード満点だな」

「落ち着いてないで、宇津木も何とかしろっ!! 目が虚ろで般若○経なんてっ!!」

「面白いじゃないか」

「面白くなんかないっ!! 恐すぎだろ!!」


 ……心頭滅っすれば、火もまた涼しい。

 一心不乱にお経を唱えつつ、周りの騒ぎには耳を傾けない。


 うん。


 なかなかイケるじゃないの。


 今後もこうしよう。


 明るい光が見え、ドラキュラの格好をした職員さんに出迎えられる。

「お疲れ様です~」

 やたらににこやかなドラキュラだなぁ、と思いつつゴンドラを降り、なかなか降りてこない二人を振り返った。

「何をしてるんですか。置いていっちゃいますよ!!」

 宇津木さんは目を細め、それから小さく苦笑した。

「お前の切り替えの早さには脱帽する」

「ありがとうございます」

「神崎ちゃん。褒めてないから」

 どこかヨレヨレの坂口さんが降りて来て、開けたジャケットを直した。

「どうかしたんですか?」

「え!? あ……うん。取り乱したんだよ」


 男性でも取り乱す事もあるんだ。


 何となく感心しながら〝恐怖の館〟を後にすると、念願のジェットコースターに彼らを引っ張り出した。


 5回目で宇津木さんが手を振り、10回目で坂口さんがギブアップ。

 一人で乗るのもつまらないので、大人しく宇津木さんの推薦する観覧車に乗った。


 ……てか、何て言うか?


 さっきから宇津木さんは真剣に外を眺めているし、坂口さんはその隣で困り顔。


 なんで、こんなに無言なんだ?


「あのぅ……観覧車って、こんなに気まずい乗り物でしたか?」

 坂口さんは私の言葉に困った笑いをして見せ、宇津木さんは見ていた窓の外から視線を戻して来た。

「知らん」

 知らん……って、ほとんどあんたのせいでしょうが!!


 そういうのは自己チューと言うのよ!

 そりゃそうだよね、何て言ったって宇津木さんだもんね!

 ……まぁ、私もジェットコースターに付き合わせたから、人の事は言えないか。
< 78 / 387 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop