シャッターの向こう側。
 思わず焦点を、その男性に合わせてシャッターをきる。

 それから、まわりの景色。

 前方に広がる雑多なビル群と、振り返ると少しくたびれた駅の改札口。

 時代のあるものと、新しいもの。

 ひとしきりシャッターを切り続け、ふと傍らの宇津木さんにレンズがあった。

 不機嫌そうではないが、サングラスの奥では不思議そうな表情になっているのが解る。

 ……あ。

 電話、終わったみたいね。


「ずいぶんレトロなカメラだな」

 言われて、カメラを膝に置いた。

「祖父のなんです。仕事にはあまり使わないんですが、いつも持ち歩いちゃって」

 丁寧にカメラをバックにしまうと、少し照れ臭くなる。

「お前なら、すぐ壊しそうなものだがな」

「馬鹿にしないでください。どんなことがあっても、カメラは死守しますよ」

 お前ならって、それが余計だ。

 鼻息荒く立ち上がると、宇津木さんはすでにスタスタと歩き出していた。

 それを追いながら、ふと漂う空気に気がつく。

 都会らしい埃っぽい風に混じり、どこか清々しい緑の匂い。


 都会になりきれていない都会。


 そんなフレーズが出て来て微笑むと、先を歩く宇津木さんが何故か訝しげな顔で振り返っていた。

「その、気味の悪い笑顔はなんだ?」


 ……こんにゃろう。


「宇津木さんこそ、その顔はなんですか」

「普通だろ?」

「それが普通なら、いつもそんな不機嫌そうな顔なんですね!」

「通年、にやけ顔のお前には言われたくないな」

「……っ!?」

 そんな感じで、一方的に言い負かされながら、私たちはタクシーに乗って目的地まで向かった。















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