シャッターの向こう側。
「ねぇ。神崎ちゃん」

 坂口さんはカラシ色のソフトクリームを食べ、ちらっと視線が合った。

「なんですか?」

「君って、宇津木の隣に行って1年って言ってたよね?」

 確か、部内の気分転換に……なんて言って、フォトグラファーもデザイナーもグラフィックも、全部ごちゃ混ぜの席になったのは去年の話だ。

 確か、荒木マネージャーがそうしたんだよね。

 何を考えてるか知らないけど、他の部では未だにフォトグラファーはフォトグラファーで集まっていたりするのに……

 ま、うちのジェネラルマネージャーは、よく解らない事をする人と有名だしね。

 ……私は一番壁際の席だけど、宇津木さんの隣の席になったのは、一年と2ヵ月位になるのかな?

 薄々その存在は知っていたけど、まともに話したのはあれが初めてだろう。

 和やかに〝よろしくお願いします〟って言ったのに、あの男は私をちらっと見て、鼻で笑った覚えがあるぞ……


 最初から失礼な男だった!!


「……何を思い出して怒ってるわけ?」

「え。いやぁ。まぁ、いろいろと? とにかく1年は宇津木さんのお隣さんですね。今回初めて一緒のお仕事してます」

「うん。よかったね」

 何が?

 不思議そうな顔をすると、坂口さんも不思議そうな顔をした。

「……もしかして、神崎ちゃんて、あまり会社内の事に興味がない?」

「はい」

 即答すると、坂口さんに爆笑される。

「な、なんですか!?」

「いやぁ……貴重な子だね」

「どこがですか。私は普通ですよ」

 ひっそりとこっそりと生きてるんだから!

「野心とか、ないわけ?」

「ありますよ。写真家のプロになることです」

「ん? もうフォトグラファーでしょう?」

 ……そういうんじゃなくて。

「商業カメラマンじゃなくて、芸術カメラマンになりたいんです」

「広告とかじゃなくて、アート方面で成功したいということね」

 坂口さんは早くもコーンを食べながら足を組んだ。


 ホント……足長いよねぇ。


 思っていたら、急に坂口さんは立ち上がった。

「じゃ、今は勉強中ってとこかな?」

「そうですね……」

 勉強中というか……


 仕事しなきゃ、生きていけないし。

 この歳になって、親の脛をかじっているのもどうかと思うし。
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