シャッターの向こう側。
 ……思えば、この会社に入った時、とにかく頭にあったのはお金のことばかりだった気がするな。


 とにかく就職しなきゃ!!


 みたいなノリで。

 他の仕事に就くことは、あまり考えなかったけど……

 今にして思えば、何でこの会社を選んだんだろう。

 考え込んでいると坂口さんが苦笑した。


「この会社を踏み台にしようとはしないんだね」

「はい?」

 どうやったら、この会社を踏み台にできるというんだ?

 坂口さんは私の不思議顔を眺め、ふっと小さく笑った。

「いいね。君みたいな子は好きだよ」

「そうなんですか」

 何の気無しに返事をして、ガリガリとコーンを食べる。

「……絶対、意味解ってないでしょ?」

「何がですか?」

 坂口さんは深く溜め息をつき、頭をかいた。

「だから……好きみたいなんだ」

「…………」



 ん……?



「……はぁ!?」

 素っ頓狂な声を上げたら、坂口さんは困り果てたような顔をしてみせた。

「自分でも、なんでかな~……なんて、少し思うんだけど」


 なんとも、心許ない話だな。


 ……て、言うよりも先に。


「私と坂口さんて、接点あったのは今回が初めてですよね?」

 今回はこの複合施設の広報を担当してるけど、会社では全く違う部署に所属していて会うことも稀。

 坂口さんは宴会会長だから、そりゃ、私からしてみれば知った顔だし、坂口さんにしてみれば、社員旅行で行方不明になっただけの認識でしょ?

 それが何故、そのような話に成り得るのか、さっぱりだ。

「うん。まぁ、会って話したのは初めてだよね」

「……ですよね?」

「俺が思うに、時間的な部分は関係ないかなぁ~と」


 つまり?


「なんて言うかさ……君みたいな子が隣に居てくれると、安心できるって言うか」


 安心できる……


 そんなにこと……初めて言われた。

 坂口さんはふわっと微笑んで、自らを指差した。

「だからさ。今……彼氏とかいないなら、俺と付き合っちゃわない?」
< 81 / 387 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop