シャッターの向こう側。
 付き合っちゃわない?

 って……そんな軽いノリで言われても。

 いや、告白に夢はないけど……

 この歳にもなれば、恋愛の一つや二つは経験しているしね。

 ……見てるだけの恋もあった。

 ぶつかって玉砕した恋もあった。

 付き合ってみて、お互いにいがみ合って別れてしまった恋もあった。

 なんとなく近づいて、なんとなく終わってしまった恋もある。

 ただ、それは学生の時の話であって、最近ではとんと考えた事もない話で……

 ……と、言うよりも、最近では〝夢〟を追い掛けていて、それどころでもなかった気がしないでもない。

 男性って言うより仲間みたいな感覚で、恋愛対象としては見ていなかった。

 坂口さんは、隣の部のウェブデザイナーで……

 単にお仕事の同僚で……


「考えた事がないです」

 正直に言うと、坂口さんは笑顔で頷いた。

「じゃ、今考えて?」


 ……強引な。

 でも、坂口さんのやんわりした強引さは嫌いじゃない。

「お得だと思うよ~? 俺、今をときめくウェブデザイナーだし?」

 その言葉に、思わず吹き出す。

「そんなこと自分で言わないですよ」

「長所は言わないと」

 クスクス笑っていると、坂口さんは急に真剣な顔をした。

「短所は……真剣な話も、真剣に言えない事かな」

 言われて表情を引き締めた。


 つまりは、真剣に言っていると言う事ですよね?


 冗談や、からかいでもなく。


「何故、私なんですか?」

 呟くと、坂口さんは微笑んだ。

「好きに理由なんてないでしょ」


 その感覚は理解できた。

 何かを好きになるのに、理由をつけて好きになる事なんてない。

 好きだから好き。

 正直、嬉しかった。


 だから、


「私でいいのなら」


 そう、答えた。















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