シャッターの向こう側。
「宇津木さんは博打打ちなのかな」

「はぁ!?」

「だってさ。私が今までやってきた仕事、よくてもデパートの婦人服広告くらいなんだよ?」

 始まりがとんでもなく突然で、出張中はそんなに深く考えてなかったけど……

 そもそも考えたら気後れするし。

 でも……よく考えたら、今回の仕事は億単位の仕事な訳で。

 しかも、オープニング広告に案内用のパンフレットにウェブページ……

 調べてみると、宣伝系統はすべてうちの会社に発注されていて……

 そんな大事な仕事に、組んだこともないような私を起用してるし。

 これって、本気で大抜擢な訳じゃない。

 私にとってはありがたい話だけど、かなりの賭だと思える。

 佐和子は難しい顔で紅茶をすすった。

「あんたの部のデザイナーって、いっちゃなんだけど変な人が多いしね」

「そうなんだ?」

「あんたもよ」

 ……そりゃどういう意味だ。

「クリエーティブ部は大きく3つに分かれてるでしょ?」

 佐和子は指を三本立てて、まず薬指を折る。

「まず、うちがいるテレビ局関係のクリエーティブ部。それから、ウェブ関連の多い坂口さんの所属する部。それからあんたのとこ」

 次々指を折る佐和子に頷く。

「……うん?」

「普通なら室長の特徴が出そうなもんだけど……あんたのとこ、雑食じゃない」

「……人を動物か何かの様にいわないでくれないかな……?」

 確かに、うちの室長はよく解らない人だけどもさ。

「でも逆を言うと、あんたの所ってアートディレクターを兼ねる人が多いのよね」

 それからピシっと、私を指差す。

「あんたみたいに、他の部の仕事をホイホイ受けるとか」

 ……ほ、ほいほい。

「ホイホイ受けてるつもりはないんだけども……」

「部内にフォトグラファーが何人いると思ってるの。普通は部外からあれこれ依頼しないわよ」

 ……言われてみれば、うちの部にも4名のフォトグラファーがいる。

 デザインや企画だけならディレクターが兼任するし、実はフォトグラファーは閑職に近かったりするんだけど……

「そういえば、部外からの話も多いかも」

 部が違うって言っても、頻繁にやり取りがあるから別に気にもしてなかった。

 今回、坂口さんも部が違うし。

「あんた注文通りに撮るって重宝されてるのよ?」

「へぇ?」
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