シャッターの向こう側。
 それは嬉しいけど……

 なんとも複雑な気分かもしれない。

 それって、注文通りにただ撮れるから……ってことでしょ?

 そんなことで重宝されても……

「ま。そんな事より、さっきから気になってるんだけど」

 佐和子の声に、いつの間にか俯いていた顔を上げた。

「今日はあんたのおごりよね?」

「ぇえ!? なんで」

「私はフリー。あんたは祝・恋人。当然の権利じゃない?」

 え~?

「普通は逆でしょがっ!!」

「細かい事は気にしない。チョコパフェ追加するわね~」

 結局、佐和子におごる羽目になり、しばらく彼女の仕事の愚痴を聞いた後、当然とばかりに飲みに出た。








「いや~。久しぶりに飲むお酒は格別だわね~!!」

 焼酎を片手に、ニヤニヤ顔の佐和子に苦笑。

 そんなに強くない癖に、よく飲む。

 いつもキャリアウーマン風の佐和子が、フワフワと赤くなる様は女の私から見てもなかなか……


「…………」


 いかん。

 変態みたいだ。

「佐和~。あんた今日少し飲み過ぎじゃない?」

 だいたい、チョイスするお酒が焼酎って言うのも、女らしくないと言うか……おやじ入ってる?

 佐和子は目を細め、不敵に笑った。

「あら~。いいじゃないのぉ。お祝いでしょう?」

 いや、お祝いする様な雰囲気の顔じゃないんだけど。

 仕事の愚痴はさっき聞いたし……

「なんかあったわけ?」

「………ん」

 佐和子はグラスの焼酎を飲み干し、不敵な笑顔のままに肩を竦めた。

「有野さんと喧嘩した」

 ポツリと呟かれた言葉にぎょっとした。

 有野さんってあれよね?

 仕事の愚痴でも、佐和子は部内の事は言わなかったけど、室長補佐の有野さんの事よね?

「喧嘩って……喧嘩?」

 するか?

 普通。

「喧嘩って言っても、仕事の事じゃないわよ。あの男、人のプライベートにズカズカ口だししてきて~」

 プライベート?

「事もあろうに……」

 佐和子は言いかけて、パクンと口を閉ざした。

「事もあろうに?」

「ううん。何でもない」

 何でもないはずがないでしょうが。

「何よ~。教えてよ~」

 肩を揺すると、佐和子はガバッとテーブルに突っ伏して首を振った。
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