シャッターの向こう側。
「だからっ!! あんたは飲み過ぎ!!」

 ピシっと言って、公園のベンチに座り込んで動かない佐和子を睨む。

「そぉ~んな事はないですよぉ~。ちゃんと歩けるし、お店からも歩けたじゃあないの~」

 それは、私が担いで歩いたから。

 まぁ、酔っ払いに正論を言っても、わけの解らない返事が返ってくるだけだわね。

 それに、言葉で佐和子に勝てた試しはないし。

 せめて酔っ払いになれれば状況も違うかもしれないけど、佐和子がいつも先に酔っ払うから、私はいつも酔えない。

 スッキリしゃっきりした頭で、さてどうしようか。

 とりあえず首を傾げる。


「ホントに、どうしちゃったのよ」

 いつもなら自重する癖に、たまぁ~に暴走するんだから。

「どうもしないわよ。よく解らなくて、むしゃくしゃしてるだけだわ」

「はぁ?」

「だいたい、上司と部下でいましょうって言ってるのに、何なの、あの男は」

 ……全く解らない。

 解らないけど、解った気がする。

 上司ってキーワードと、あの男と言うフレーズ。

「原因は有野さんか」

「違うわよぅ!!」

 ガバッと起き上がる佐和子に、私は素早くベンチから立ち上がった。

「……あら。逃げたわね」

「逃げるって。叩こうとしたでしょ」

「雪もすばしっこくなったわね」

 10日も宇津木さんと一緒にいれば、殺気くらい読める様になる。

 ……自分で言っていて虚しくなるけど。

 苦笑していると、佐和子のバックから明るい曲が流れて来た。

「ん~……誰よ、こんな真夜中に」

 佐和子は携帯の画面を開けて、無言になった。

「メール?」

「う、うん。みたいね」

 なんか……

「顔色悪いよ? 具合悪くなった?」

「都合が悪くなったの」


 は!?


「神崎ちゃん?」

 呼ばれて、ふぃっと顔を上げた。

「あ。坂口さん」

 ……と、誰だアレは。

 ヒラヒラとにこやかな坂口さんの隣に、不機嫌そうな男の人。

 見たことはある。

 見たことは……
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