シャッターの向こう側。
「こんな所でどうしたの?」

 近づいて来る二人に、佐和子が身を固くしたのが見えた。

「坂口さんこそ……」

 もう夜中と言うか、明け方に近いですけど。

「うん。先輩と飲みに……こちらは、第二クリエイティブ部の有野さん」

 言われて小さく手を打った。

 そうだよ、どこかで見たことはあるはずよ。

 隣の部の室長補佐……

「はじめまして。加倉井さんのお友達?」

 爽やかな外見に似ず、低い渋い声。

 にこやかに言われて、ちらっと佐和子を見た。

 ものすごくこっそりと、携帯をバックにしまい、さっき座っていた位置から微妙にズレている。

「ええ。はじめまして」

 有野さんはにこやかに頷き、佐和子を見た。

「……で、うちのクリエイターは、酔っ払っているのかな?」

 あからさまに佐和子が身を固め、ブンブンと首を振る。

「酔ってません! 平気れす!」

 うん。

 呂律もまわってないよ、佐和子。

「僕は飲むなと忠告したじゃないか」

 有野さんはにこやかに呟き、私を見た。

「彼女、連れていってもいい? ちゃんと送り届けるから」

 ……え。

 私に言われても……

「大丈夫ですから! 一人で帰れます!」

 佐和子がぴょこんと立ち上がり、少しモタつきながら、猛スピードで公園を歩み去って行った。

 しばらく彼女の後ろ姿を見送り、有野さんは腕を組みながら溜め息をつく。

「今日の彼女はどれくらい酔ってるんだろうか?」

「ちゃんと一人で帰れるくらい、酔ってませんよ」

 無言で有野さんは私を見下ろす。

「あれで?」

「あれを通り越したら、一見は素面の様に見えます」

 それが面白いんだ。

 いいだけ呂律がまわらないのを披露した後、何故かシャキリとしだす。

 だけど酔っ払いには変わりなく、ケン○ッキーの人形に説教をしたり、いきなり隣のお兄さんに甘えてみたり……

 だけど、次の日にはキッチリ記憶がないと言う。

「なるほどなぁ……」

 有野さんは呟いて、佐和子の消えた方向に歩き始めた。

「あ、有野さん!?」

 驚く坂口さんに、振り返りもせずに片手を上げ、有野さんは公園から出て行った。


「なんだろね、今の」

 ポツリと呟いた坂口さんに、私も首を傾げる。

 ……解ったら素晴らしいと思う。

「さぁ……?」

 正直、そう言うしかなかった。















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