シャッターの向こう側。
「痛いっ!!」

「何を馬鹿面してるんだ、お前は」

 宇津木さんの声に振り返り、手に持った分厚いファイルを見た。

 もしかしなくても、それで殴ったんですかね?

「人の頭をポカスカ叩かないで下さい!」

 ファイルと私を見比べ、少しだけ天井を見上げた。

「悪い。またお前が女だと忘れてた」


 どれだけっ!?


「そんな事よりな。こっちも頼むことになったから」

 そんな事よりって、あんた……

 悪魔的な笑みと共に、持っていたファイルを突き付けられた。

「え? あの?」

 この分厚さは何?

「後は、そうだな。歯ブラシと洗顔セットでも持ち込んで置けばOKだな」

 さらにズイッとファイルを突き付けられて、思わず受け取った。

「ソレ。今月末の予定。日時は書いてあるが、結構大きなイベントだから心して掛かれよ?」


 はぁ?


「あ~……Kミュージックの仕事。うちで受けちゃったの?」

 のんびりと荒木さんが呟いて、肩を落とす。

 ……って、ん?


「はい。受けて欲しくなければ、マネージャーが会議に出てくださいね」

 宇津木さんは椅子に座りながら荒木さんに答え、ニヤリと笑った。

「いやぁ、やっぱり、そういうのは若者に任せた方がいいしねぇ」


 全然、話が見えないっ!!


「うちでの担当は、単にレセプションの宣伝と企画引っくるめての話だから。T市よりは小さな仕事だな」

 軽くそう言って、引き出しの黒いファイルを取り出すと、何やら記入している。


 T市……T市って…


 こないだの?


「あんなのと比べるって事は、大きな仕事じゃ?」

 囁いた瞬間、宇津木さんが顔を上げて私を見た。

「……だったら?」


 だったら?


 だったらですねぇ……



「もっとマシな渡し方できませんか? もっと、こう、重々しくとか……」

「トップシークレットでもあるまいし、何で重々しく渡さなきゃならないんだよ」

 苦笑して、持っていたペンで私のおでこを叩く。

「プロの写真家になりたいなんて大それた夢を持つ女が、これくらいの事で怖じけづくんじゃない」


 言っている事は解りますが……



 解りますがね!!














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