シャッターの向こう側。

雨降り……もしくは二人

******





「♪♪♪~」

 嬉しく、楽しく、レッツ残業☆

 鼻唄混じりに写真を選びながら、熱いコーヒーを飲んで舌を火傷する。

「……ふふ」

 あら、私ったらドジだわね~。

 うふふ~

 うふふふふ~


「その不気味な笑いをどうにかしろ」

「もしかして何日か寝てないの、神崎ちゃん?」

 隣では、たぶん3日は1時間睡眠の宇津木さん。

 頭上では、差し入れついでに様子を見に来てくれた坂口さん。

 冷たい視線と、心配そうな視線を一身に受けて、また笑う。


 何日?


 さぁ? 何日でしょう?


 多分いろんなフォトグラファーがいるけど、一月の間に2個も3個も掛け持ちする人はいないと思うの。

 私の場合4社だし。

 まず、新作端末機をパシャパシャと撮り……途中、スタジオの熱気に倒れるかと思い。

 次に自然に優しいハイブリッド車……あの車丸くて可愛かったなぁ……を撮り。

 あとはA社に突撃して、ビル外部と内部を社員さんの作り笑顔の中を探検隊……自然に笑わせるのにプチピン芸人になったわよ。


 それに、隣で同じ仕事に取り掛かって忙しそうにしてる人を見てたら〝お疲れ様でぇす〟とは、なかなか言いにくい。

「別に俺は、3社を先に終わらせてから、こっちに取り掛かれとは言った覚えは無いんだが」


 言われた覚えはないけど、だいたいそんなに掛け持つと私が落ち着かないし……


「私のやり方ですから、気にしちゃいけません」


 現像が遅れたり、画像処理していて余りに凝り過ぎたり、ちょっとそれを心配したりしたのは、私の勝手なんだから。


「神崎ちゃんて、フォトグラファーだよね……?」

「何故かピヨはグラフィックの方も勝手にやってる」

「それ、やらなくていい事だよね?」

「馬鹿だよな?」

「聞こえてますよ」

 こそこそ話をしている様で、丸聞こえの二人をちらっと睨む。

「あ。調子が普通になった」

 坂口が安心したように、ニッコリと笑った。

 それに釣られて微笑む。

 睨むのが普通……ってのが、少し気にかかるところだけど。
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