シャッターの向こう側。
「差し入れケーキだから、食べちゃおうか?」

 差し入れにしては随分と大きな白い箱を渡してくれ、奇妙な顔の宇津木さんをちらっと見た。

「……ケーキ?」

 ポツリと宇津木さんが呟き、

「うん。ケーキ。お前の好物もあるよ?」

 そう言った坂口さんを、宇津木さんは椅子に座りながら蹴っている。

「いてっ……!! お前な、蹴ることはないじゃないか」

「一言余計なんだ!!」

 ホントに仲がいい二人なんだな。

 でも……

「宇津木さんにも、甘いものに好物があるもんなんですねぇ」

 箱のリボンを切っていると、頭上では何故か沈黙が落ちた。


 何故だ?


 不思議に思って顔を上げると、笑いながら頷いている坂口さんと、どこか複雑そうな宇津木さんがいた。

「何ですか」

 宇津木さんは何故か鼻の頭をかきながら、椅子の上で座り直す。

「いや……からかわれるかと思った」

 何でさ。

「からかわれたかったんですか?」

「まさか。だけど感心されるとも思わなかった」


 いや……

 感心した覚えもないんだけど……


「とにかく食べちゃいましょうよ」

 リボンを捨てて箱を開け、目を丸くする。

 苺ショートが2つ、モンブランが3つ、チョコレートケーキが2つ、チーズケーキぽいのが2つ、ブルーベリーのタルトが……

 って、いくつさ。


「こんなに食べられません」

 呟いたら、坂口さんに爆笑された。

「何も、2人で食べろなんて言わないよ」

「そうそう、僕もいるしね」

 いきなり頭上から降って来た声に、ぎょっとして顔を上げる。

 荒木さんや、他の残業組のメンツが、顔を覗かせていた。


「神崎さん、これをひとりで食べる気でいるならすごいんじゃない?」

 ……なんて、同僚に言われて頬が熱くなる。

「皿とフォークがいる?」

「じゃあ私は紅茶入れてくる~」

「あ。俺はコーヒーの方がいいな」

「自分で入れなさいよ」

 などと、同僚が右往左往している間に、宇津木さんがモンブランを確保し、

「宇津木さんはモンブランが好物なんですね」

 と、私が呟くと睨まれ。

 そんな感じで、フロアの人とケーキを取り分けた。
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