くるまのなかで
奏太はあまりおしゃべりなタイプではないけれど、メールや電話は好きだった。
高校時代に付き合っていた頃も、連絡をマメにくれていた。
学校で会えなかった日は、
『今日は声を聞けなかったから』
と電話をくれることも多かった。
だから私は、奏太が大事にしてくれているのだと実感できたし、私を好きなのだと安心することができた。
10年経った今、私たちは付き合っているわけではないけれど、奏太はあの頃のように、毎日何かしらメッセージをくれる。
『おはよ。今日は雨が降ってるから、雨道の運転気をつけて』
『お疲れ。今夜は月が綺麗だよ』
『おやすみ』
基本的には短文かスタンプで、ダラダラやりとりを続けることはしない。
会話が続きそうだったらいつも奏太から電話がかかってくる。
ボルテと呼ばれる高音質な通話は、奏太の優しい語り口調もあって、まるで耳元で囁かれているような気分になる。
その度に私は全身を巡る血液の流れを感じながら、彼を思う気持ちを噛み締めるのだった。
もうそろそろ限界だ。
私の『好き』だという気持ちを、自分の胸だけに抑えておくのが苦しくなってきた。
奏太に告げてしまいたい。
でも、そう思う度に「別れたい」と言われた日のことを思い出してしまう。
気持ちを吐き出して楽になりたいけれど、傷つきたくない。