くるまのなかで
ご飯行こうとか、ちょっとそこまで付き合ってとか、またそういう曖昧な感じで来ると思ってた。
“デート”だなんて直接恋愛に繋がるワードを使ってくるなんて思ってなかったから、私は一気に舞い上がる。
デートだって、どうしよう。
何着ていけばいいんだろう。
私、かわいい服とか持ってない。
夜中なのにクローゼットを開けて衣類を物色していると、携帯がゆっくりとしたテンポで鳴り始めた。
電話だ。
私は勢いよくテーブルから電話機を持ち上げ、いったん深呼吸してから耳にあてる。
「もしもし」
『俺だけど』
ああ、もう本当に……この高音質が憎い。
「うん」
私の声も、奏太の耳にはリアルに届いているのだろうか。
『明日、なんだけど。ごめん。俺、どうしても夜9時は過ぎるんだ。てっきり梨乃は明日も仕事だと思ってたから……別の日にする? 俺はいつでもいいし』
「ううん。私、不定休だし、休みなんてわからないよね。私は生活リズムがズレてるし、夜になってもいいよ。奏太の方こそ、明後日も仕事でしょう?」
『俺は大丈夫。ていうか、梨乃が眠る時間までにはお帰しします。朝まで連れ回したりはしないから、安心して』
朝まで一緒にいられるなら、私はその方が嬉しいのに。
と、喉まで出かかってグッと飲み込んだ。