くるまのなかで

ご飯行こうとか、ちょっとそこまで付き合ってとか、またそういう曖昧な感じで来ると思ってた。

“デート”だなんて直接恋愛に繋がるワードを使ってくるなんて思ってなかったから、私は一気に舞い上がる。

デートだって、どうしよう。

何着ていけばいいんだろう。

私、かわいい服とか持ってない。

夜中なのにクローゼットを開けて衣類を物色していると、携帯がゆっくりとしたテンポで鳴り始めた。

電話だ。

私は勢いよくテーブルから電話機を持ち上げ、いったん深呼吸してから耳にあてる。

「もしもし」

『俺だけど』

ああ、もう本当に……この高音質が憎い。

「うん」

私の声も、奏太の耳にはリアルに届いているのだろうか。

『明日、なんだけど。ごめん。俺、どうしても夜9時は過ぎるんだ。てっきり梨乃は明日も仕事だと思ってたから……別の日にする? 俺はいつでもいいし』

「ううん。私、不定休だし、休みなんてわからないよね。私は生活リズムがズレてるし、夜になってもいいよ。奏太の方こそ、明後日も仕事でしょう?」

『俺は大丈夫。ていうか、梨乃が眠る時間までにはお帰しします。朝まで連れ回したりはしないから、安心して』

朝まで一緒にいられるなら、私はその方が嬉しいのに。

と、喉まで出かかってグッと飲み込んだ。

< 103 / 245 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop