くるまのなかで
「梨乃、お腹空いてる?」
「ぼちぼち、かな」
奏太は「連れていきたい店がある」と、街の方へと車を進めた。
ほとんどの商店は午後7時頃、飲食店も大体9時頃には閉店してしまう地域。
この時間に開いているのは、お酒が飲める店かファミレス、そして牛丼屋くらいである。
これまでは車が停められるという理由で、郊外のファミレスばかり利用していた。
駅の近い場所にあるコインパーキングに車を入れた。
そこから控えめにネオンの光る場所へ、少しだけ歩く。
平日だというのに、サラリーマンのような人たちで賑わっている。
ここ半年は車で通勤していたから、こういう雰囲気が懐かしく思える。
奏太がブルーの看板のお店の前で足を止めた。
「ここだよ」
と言って扉を開けてくれる。
暖色のライトで照らされた店内は、カウンター席のみ。
10席程度ある中、6席は先客で埋まっている。
カウンターの前が厨房になっていて、調理をしている男性と、出来上がった料理の皿を持つ女性の姿が見えた。
女性の方が私たちの来店に気づく。
「いらっしゃいませー。あ、奏太くん!」
「こんばんは」
どうやらお知り合いの店らしい。
雰囲気がすごく、デートっぽい。
周囲のお客さんも、カップルばかりだ。