くるまのなかで
取っておいてくれたらしい席に座り、とりあえずウーロン茶で乾杯。
ワインセラーのあるオシャレなビストロだが、奏太は運転だし、私は遠慮した。
「おう、奏太。来たか」
二人でメニューを見ていると、頭上から声がかかり、顔を上げる。
この店のシェフのようだ。
ふくよかで人の良さそうなシェフは私の顔を見るなり、目を丸くした。
「コバリノ? コバリノじゃん!」
「え?」
私を知ってるの?
ということは、同じ高校の人?
一体誰だろう。私には覚えがない。
奏太は首を傾げる私を見ておかしそうに笑っている。
「やっぱわかんないか。こいつ、タケだよ」
私の記憶が確かなら、『タケ先輩』といえば、坊主頭で眉毛がほとんどなくて、体型はガリガリ。
奏太のグループの中でも抜群に人相の悪い男子生徒だったはず。
もう一度シェフを見る。
顔も体も少しふっくらして、とても人が良さそうな男性だ。
髪も普通の短髪である。
「タケ先輩!? 嘘でしょ?」
清香先輩以上の変貌振りに、私は10年という時間の長さを改めて思い知らされた。