くるまのなかで
しばらく返事が来なかったので、携帯をコンソールボックスの上に置き、車を発進させた。
敬礼する田辺さんに会釈をして、公道に出る。
時刻は午後11時過ぎ。
まだ奏太が眠る時間ではない。
日曜日、何をしよう。
ていうか一日デートって、普通どんなことするんだっけ。
映画観て食事?
遊園地や水族館?
それとも日帰り温泉と食べ歩き?
ううん、お出かけなんてしなくたって、奏太と一緒にいられればそれでいい。
狭いけれど、私の部屋でダラダラ過ごすだけでも、私は幸せに感じるだろう。
宇津木自動車の前を通過してすぐ、携帯電話が震えた。
暗い車内に緑色の明かりが反射している。
さっき送信したメッセージの返信が来たようだ。
ドキッと胸が跳ねる。
私は赤信号で停車したタイミングで、表示されたメッセージを読む。
『ごめん。その日は先約があります』
「ええぇー……!」
思わず声が出た。
先約……かぁ。そりゃそうだ。
もうすぐだもんね。浅はかだった。
『そっか。残念だけど、また今度だね』
私は自宅の駐車場に着くなりそう返信をして、深くため息をついた。