くるまのなかで
私ったら、舞い上がってバカみたい。
当たり前だけど、奏太には私以外の人との付き合いがあるわけで。
自分が仕事ばかりで友達とも休みが合わない寂しい女だからって、ほんとバカ。
人気者の奏太が私みたいな寂しい男であるわけがないのに。
思いが通じ合ったことで、奏太の余暇を全て手に入れた気になっていた。
何様だ。
でも、じゃあ、いつ会えばいいの?
いつなら一緒にいられるの?
会うことさえままならない状態で、付き合っているといえるの?
送信したメッセージに既読がついた瞬間、目頭が熱くなって画面が滲む。
期待が大きかった分、ショックが大きかった。
涙を拭い、ハンドルに頭をつけ、もう一度深く息を吐く。
すると、手に握っている携帯が、長いテンポで震え始めた。
『着信 徳井奏太』
画面にそう表示されている。
「もしもし」
『梨乃? 俺だけど』
彼の優しい声が、再び涙を誘う。
私はこの声を生で聞けるチャンスを失ったのだ。
「うん」
『今度の日曜日の件だけど、ほんとにごめん。日曜なんて、いつもは暇で寝てるだけなんだけど、よりによってこの日だけ先約が入ってて……』
「ううん。いいの。私が休みを取れたのも、たまたまだから」