くるまのなかで
実際は休日出勤を避けるために努力をしたけれど、押し付けがましくなるから言わない。
奏太だって、睡眠時間を削って会いにきてくれていたけれど、眠いとか疲れているなどと口に出したことはない。
『あの、さ』
「うん?」
『今からそっち、行ってもいい?』
「え? 今から?」
今からって、もうすぐ12時になっちゃうよ?
明日も仕事でしょう?
『会いたい』
一瞬、心臓が止まったかと思った。
鷲掴みって、こういうことなのかもしれない。
溜まっていた涙が、とうとう目から溢れてしまった。
「私も」
会いたいって、毎日思ってた。
奏太からその言葉が聞けただけで、悲しかった気持ちの3割が昇華した気がする。
『梨乃、泣いてるの?』
「泣いてない」
とは言ったけど、私の声は明らかに鼻声だ。
電話越しにクスッと笑った声と、カギを手に取ったような音が聞こえた。
『待ってて。すぐ行く』