くるまのなかで
「梨乃、近くにパーキングはある?」
耳元で尋ねられ、思わず体をよじった。
それを機に、顔が見える程度に体を離す。
汗ばんだ部分がひやっと熱を解放した。
「月極の駐車場なら少し歩いたとこにあるんだけど、時間制のコインパーキングはないみたい」
「俺、月極の駐車場、借りようかな」
「そんなことしなくても、奏太が一言“来たい”って言ってくれれば、私が奏太の家まで迎えに行くのに」
私がそう答えると、奏太は苦笑いをして言った。
「あわよくば、できるだけこの部屋に入り浸れる環境を作ろうっていうつもりなんだけど」
「え?」
「前みたいに、毎日学校で会えるわけじゃないからさ。ダメ?」
そんなの、ダメなわけない。
そりゃあ、ここは単身者専用のアパートで、同棲や同居はダメだって契約書には書かれているけれど。
騒いだりしなければ、“たまに”友人を招いたり宿泊させる分には構わないと、契約時に説明を受けた。
「いいんじゃないですか?」
幸か不幸か、ちょうど合鍵を預けられる家族もいない。
奏太が駐車場を借りたら、彼に鍵を預けよう。
そしたらきっと、もっと一緒にいられるようになる。