くるまのなかで
BGMには、高校時代によく聞いていた懐かしい曲をチョイスした。
歌を口ずさみながら奏太との思い出に浸り、これからの未来に思いを馳せる。
今日は残念ながら先約があったようだけれど、今度は奏太の方が休みを合わせてくれると言っていた。
近いうちにうちの近くの駐車場を借りて、頻繁に私の部屋へ来てくれるとも。
彼と再会するまでは想像もできなかった甘いラブライフが訪れようとしている。
母しか家族のいなかった私は、すでに天涯孤独の身だ。
もし彼もそう望むなら、一緒に暮らしたっていい。
そうすれば、生活リズムが合わなくても毎日会える。
そしてゆくゆくは……なんて、まだ付き合い始めたばかりなのに、気が早いか。
2月に亡くなった母は、生涯独身だった。
未婚で私を産み、一人で育てた。
私は自分の父親が誰であるか知らない。
死ぬまでにいつか教えてくれるかもしれないと思っていたが、結局彼女は墓場まで持って行った。
母は娘の私から見ても、危なっかしい女だった。
お人好しで人に流されやすくて騙されやすく、とても賢いとはいえない。
だから彼女の周りには、彼女を都合のいい慰み者にしようとする不誠実な男がうじゃうじゃいた。
そういう男に、異常にモテていた。
おそらく私を産む前からそうだったのだろう。