くるまのなかで
男の子は好きなおもちゃでも買ってもらえたのか、やけに誇らしげにカラフルな紙袋を手に提げており、反対の手を繋ぐ父親に、嬉しそうにじゃれている。
その父親が身に纏っている服と髪型に、とても見覚えがある。
だって先日、たった5分の逢瀬だったけれど、私はたしかにあのネイビーのTシャツに顔を埋めたし、その時のボトムはあのカーキ色のパンツだった。
湧き上がる不安に、手足がキンと冷えてきた。
でも、服や髪型の趣味が合っているだけの別人かもしれない。
そう自分に言い聞かせた次の瞬間、希望の光は完全に絶たれてしまった。
「奏太、ちょっと待って」
彼らに続いて現れた美しい女性。
彼女を振り返った父親の横顔は、間違いなく奏太だった。
どす黒い海の大きな波に飲まれたような絶望感が全身を襲う。
彼らは車を1台挟んだ隣の通路に入り、私のいる方へ近づいてきた。
私は思わず車の陰に身を隠し、彼らの様子を盗み見る。
頭の中と感情が整理できない。
手と膝が震えている。
ここに来るまでの道で想像していた奏太との明るい未来像が、音を立てて崩れ去っていく。
「そっちも持とうか?」
「うん、お願い。あ、ねえ、帰る前にドラッグストア寄って」
「あー、洗濯洗剤か」
「そう。奏太のつなぎが汚れるから、すぐなくなるの」
「すみませんね」
彼らが共に生活をしているのは、聞こえてきた会話からも明らかだ。
さらに驚くべきことに、彼の隣を歩いている美しい女は、10年前に亡くなったモト先輩の最愛の彼女、梶浦由美先輩だった。