くるまのなかで
「小林。お前、母親が死んだときより絶望的な顔してるぞ」
母が亡くなった時は、もうある程度覚悟が決まってからのことだったから、わりとすぐに受け入れることができた。
病気で苦しそうにしていたし、解放されてよかったという気持ちもあった。
だけど奏太のことは、完全に浮き足立っているところを地面に叩き付けられたから、衝撃が大きかった。
今日一日、落ち込んだ顔だけはしないよう気を張っていたのに。
夜は一人だし、疲れもあるし、気が抜けていたのか。
最もバレたくなかった人にバレてしまった。
「枕木さんって、私をよく見てますよね」
「お前を管理するのが俺の仕事だからな」
「素直に愛してるって言ってくれていいんですよ?」
私の冗談に、彼は安心したような笑みを浮かべる。
「平気か?」
「ダメですね。同じ男に二度も地獄を見せられるとは思いませんでした」
「なんだ、男かよ」
「なんだとは何ですか。一大事ですよ。女にとっては」
「次があんだろ。若いんだし」
「ありますかね、こんな私に。もうアラサーですけど」
「あるだろ。一度しか言わないけど、お前、男にとってはまあまあ可愛いからな」