くるまのなかで
彼の言葉に、驚いて胸が詰まった。
その整った顔で、聞き慣れない落ち着いた優しい声で、可愛いだなんて。
「ふっ、ご冗談を」
何だか無駄に、ドキドキする。
このクソ上司相手にムカつく。
落ち着きたくて、買ってもらったミルクティーをゴクッとたくさん飲み込んだ。
「マジだって」
私はこの男が嫌いだ。
いつも私を散々からかうし、仕事はどんどん押し付けてくるし。
顔がいいからってみんなの人気者で、女にはチヤホヤされて調子に乗っている。
……と、思っていたけれど。
本当は私の様子を見てあえてからかったり、成長のためにわざと負荷をかけていたのだと、うっすら気づいてはいる。
顔もスタイルもいいし、その場を引き締めたり和ませたりする話術にも長けており、有能なチーフなのだと、認めたくなかっただけで理解している。
そんな彼が、私を、『マジ』で『まあまあ可愛い』と言うのだ。
今の心理状態もあって、勘違いしそう……。