くるまのなかで
それにしても、奏太は白々しくも毎日マメに連絡をくれるから不思議だ。
『おはよう』
『お疲れ様』
『今度の休みは?』
『おやすみ』
そして、
『会いたい』
会いたいって、どんな気持ちで言ってるのだろう。
バカな男。
もう全部、私にバレているのに。
『今度、ゆっくりね』
送信。
今度っていつだよと、自分で自分にツッコむ。
一番バカなのは、わかっているくせに会いたいと言われてときめいてしまう自分だ。
私だって会いたい。
だって、好きなんだもん。
奥さんも子供もいるのに、それを隠して私を彼女にした悪い男だってわかっていても、簡単に忘れられない。
スマートに振ってやろうなんて思ってはいるけれど、いざ愛する彼を目の前にして、そんなことができるだろうか。
彼のそばにいさえすれば、いつか彼を手に入れられると思ってしまうのではないだろうか。
だってアウトレットで彼を見るまで、私は奏太に愛されていることを疑わなかった。
などと考えていると、奏太から次のメッセージが来た。
『それまで待てない。今からそっちに行っちゃダメ?』
心がグラグラ揺れる。
ここで『いいよ』と返信すれば、きっと奏太はすぐに私のところに来てくれて、きつく抱きしめてくれるだろう。
その幸福感を思い出すと、思わずそう打ってしまいそうになる。
私はグッと堪え、充電器に繋いだ携帯電話を放置することにした。
通知で表示されただけのメッセージは、彼から見れば既読にもなっていない。