くるまのなかで
「あの、清香先輩」
「なーに?」
「私、奏太とはもう別れようと思うんです」
私が真面目にそう言うと、清香先輩は「はあっ?」とひときわ大きな声を出した。
「え、ちょっと待って。どうして? 付き合い始めたばっかなんだよね? もうケンカでもしたの?」
こちらに身を乗り出して問い詰めてくる。
キャスターで簡単に動かせるテーブルが、どんどんこちらに押しやられてきた。
「だって、奏太には由美先輩がいるし」
「え? 由美?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔で首を傾げる。
どうやら先輩は本当に知らないらしい。
そういえば由美先輩については前に、
『県外に行ったって』
『それからのことは、あたしも知らない』
って言ってたっけ。
だとしたら、タケ先輩も知らないのかもしれない。
だから私を店に連れて行けたのだろう。
二人の結婚は、かつての仲間にすら秘密にしているようだ。
ふん、そんな秘密、私が知ったこっちゃない。
「奏太と由美先輩、結婚してるみたいです。子供もいるんですよ。男の子」
私の言ったことに驚きすぎたのか、清香先輩はますます間の抜けた顔になってしまった。