くるまのなかで

「え、ちょっと、何言ってるか全然わかんないよ。奏太と由美? そんなの聞いたことないもん」

聞いたことがなかったとしても、私はこの目で見た。

そしてこの耳で聞いた。

事故現場に付き添った日の帰り道、由美先輩のことを聞いたとき、奏太は

『由美なら、元気にやってるよ』

と言った。

思えば親友だった清香先輩でさえ音信不通になって状況を知らなかったのに、奏太が知っているのは不自然だ。

どうしてその時に気づかなかったんだろう。

「きっとコバリノの誤解だよ」

「どうでしょうね」

“奏太は元ヤンだけど芯は真面目な男で、浮気のような半端な真似はしない”というイメージ自体が誤解だったのだ。

「奏太にそう言われたの?」

「いいえ。たまたま見かけてしまったんです」

「そのことは奏太に伝えたの?」

「いいえ、まだ。もう少し気持ちが落ち着いたら、ちゃんと話をするつもりです」

これ以上、彼の前で無様に泣きたくない。

自分が浮気相手だとわかったからって、メソメソ泣くだけのしょうもない女なんかになってたまるか。

もっと強くならなくちゃ。

私を守ってくれる人など、もうこの世に一人もいないのだから。

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