くるまのなかで

自販機で買った炭酸飲料をガブ飲みして休憩を終え、センターに戻った。

センター内では他部署の電話が鳴りまくっていてずいぶん忙しそうだが、我らがさぽーとこーるはヒマなようだ。

といっても夏休みに入った途端、信じられないくらい忙しくなるから、嵐の前の静けさともいえる。

この平穏は、おそらくあと2週間で終わってしまう。

「枕木チーフ、休憩ありがとうございました。戻りました」

「おう。お疲れ。異常・クレーム・フィードバックなしだ」

「了解です」

綺麗好きなこの男にしては珍しく様々な書類で散らかったデスクに、写真付きの履歴書や職務経歴書を綴じたファイルが開かれている。

それらを眺めながら、握ったペンで頭をポリポリ掻き、時々うなる。

例の新設部署で雇用するメンバーの、書類審査をやっているようだ。

9月から研修に入ると聞いたが、もう募集を始めているのか。

このセンター内の仕事もあるのに、中間管理職は大変だなぁ。

少し前は“ざまあみろ”って思っていたけど、この間は私を励ましてくれたし、ちょっとは応援しよう。

「小林。いくら俺の顔が好きだからって、そんなに俺を見つめるな」

「チーフを見てたわけじゃありません。散らかったデスクを見ていたんです。ほんと自意識過剰」

「これくらいの自意識を保っていないと、イケメンは務まらないもんで」

「もうアラフォーのおじさんなんだから頑張らなくていいんじゃないですか?」

「もうアラサーのお前はもっと頑張れよ」

……前言撤回。

やっぱ応援なんてしない。

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